Chapter 12


ライフライン

電気・電話・水道・ガス


“会館”でイブニングの授業見学をしていたときのことです。

テンポよく形容詞の学習が進んでいました。

と、突然電気が消えました。

 “いったい何が?”と思うまもなく、教師の声が元気よく続きます。

「はい、何も見なくていいです。形容詞の練習をしましょう。

反対は何ですか。 明るい。」

学習者「暗い。」

教師 「いまはどっちですか。」

学習者「暗いです。」

教師 「はい、次 早い。」

学習者「遅い。」

 といった調子で学習者も馴れたものです。

結局その1コマの間に3回の停電がありました。

 停電の時間はせいぜい4〜5分くらいでしたが、そのつど

教師 「はい、じゃこんどは Pasado (過去形)。 明るいです。」

学習者「明るかったです。」

 とか

教師 「次は Negativa (否定形)。明るいです。」

学習者「明るくないです。」

教師 「静かです。」

学習者「静かじゃありません。」 

などと途切れることなく授業は続きます。

 クラスが終わり、教師室に帰って聞きました。

先生たちの答えは異口同音に

「以前に比べたら全然よくなりました。

前はもっともっと停電がありましたから。」

という話です。

 フジモリ大統領以前、それからフジモリ大統領になってからもテロが横行していた時期までは停電は日常茶飯事だったそうです。

いまはそういう種類の停電はなくなり、今回の“会館”での停電も電気会社というより“会館”内部の電気設備に原因があるとのことでした。

 それにしても“授業中の停電”など日本では想像もつかないことですが、ここではそれは「ありえないこと」ではなくて、その対応も怠りなくなされているようです。

 停電は別として、ペルーでは電気に関して特別の注意が必要です。

ひとつは電圧の違いで、これは世界各国共通の現象です。

ペルーの電圧は220Vで100Vの日本の電気機器を使うにはまず変圧器が必要になります。

 しかも変圧器は日本から持ってこないといけません。

こちらでも変圧器を売っていますが、出口が110Vのものがほとんどで100Vのものが手にはいりにくいからです。

 そういえば以前シェーバーを買うとき調べた記憶では、100Vの国は国際的に見ても稀で、たしか日本と韓国の他にはほとんどなかったかと思います。

 電気に関するもうひとつの注意はペルー特有のもので、電圧の変化です。

コンピューターなどの繊細な機器については電圧の変化の影響を受ける事があるので、スタビライザー(安定器)を通した方がいいですよ〜とアドバイスを受け、そうしています。

 この「通信」を打っているマシンもあらかじめ海外での使用を考えIBMにしたので電圧はマルチ対応のため変圧器は不要ですが、その場合でもスタビライザーは通した方が無難なようです。

 先日、ある方から聞いた情報によると停電と電圧の不安定は必ずしもペルーだけとは限らないようです。

 その方は南米各国の滞在経験があり、例えばボリビアではいまでもときどき停電し、それも2〜3時間に及ぶということです。

 人々も馴れていてその時間は電気なしで過ごすそうですが、ただひとつその間に絶対に冷蔵庫だけは開けないよう注意するそうです。

 また、電圧の不安定ということでは(そのせいかどうかわかりませんが)マルチ対応のPCが200V以上の国で煙を吹いた事例があるそうです。

 水道は日本と同じですが、水質に問題があります。

硬水だからです。

硬水=カルシウム塩・マグネシウム塩を多く含む水。飲料・洗濯には適さない。(角川新国語辞典)

 ペルー生活への対応で真っ先に注意されるのがこの水の問題です。

料理・飲用には別に市販の軟水を使うほうがいいようです。

 リマのひとつ北にワラル市というところがあります。

そこの日系校に昨年6月から日本語を教えに来ている高橋夫妻という若いご夫婦の話では、水には十分気をつけていたのに、こちらに来てすぐにお腹の調子を崩し、「二人とも2ヶ月間苦労しました。」と言っていました。

 やはり「体が水に慣れる」までに相当の期間が必要です。

 私もはじめの2週間、買ってきた軟水を使っていましたが、水道水を沸騰させてから使うようにし、その後は水道水だけで済ませられるようになりました。

 「それで大丈夫なら岡田さんはよっぽどペルーにあっているんですよ。」といわれていい気になっていたら、この前ついにお腹をこわし10日間苦労しました。

 もっともその原因は、水ではなくナマのまま食べたソーセージのせいだ、と私は思っていますが〜。

 市販の軟水は専門の業者かスーパーで売っています。

日本でよく灯油を運ぶのに使っている、塩化ビニールの分厚い正立方形か円形の容器に入れて運びます。

 スーパーの場合、店のサービスカウンターに空の容器を返却するコーナーがあり、そこで容器返却の証明のメモを受け取ってから店内で容器入りの水を買います。

 その場合は水だけの料金でいいですが、容器返却証明のメモがないと容器の料金も支払わなければなりません。

 スーパー以外では、普通の雑貨店やプロパンガスの業者がいっしょに取り扱っているところもあり、直接買ってもいいし電話で配達してもらう事もできます。

 ただ配達は時間があてになりませんが〜。

それから水の問題、というよりは野菜の問題でしょうが、ナマ野菜を食べるときは必ず「専用」の液でよく洗うことが必要です。

 ひとつには土に含まれている菌や虫などを洗い流すことと、もうひとつは使った薬剤が十分落とされていないことに対応するためです。

 野菜洗浄用の液はスーパーの野菜売り場にいっしょに売っています。

さらに、これも水そのものの問題ではありませんが、水栓の回し方が日本と逆です。

 こちらでは水を出すとき左へ(時計回し)回します。

これは習性でなかなか馴れるのに時間がかかり、いまでもときどき水を止めようとして左へ回し、思いきり水を出してしまうことがあります。

 次にガスですが、リマには都市ガスがありません。

プロパンガスを専門業者から配達してもらいます。

 1個(1回)の代金が32ソーレスで私の場合3ヶ月以上使えますから、いくら一人で使う量が少ないとはいえ安いです。

 それはいいのですが、不便なのはいつなくなるかわからないので、少なくなると「もうなくなるか、もうなくなるか、」と心配しながら使っています。

 配達のとき予備をもらっておいてもいいのですが、ホースの取り付けがきちんとできるかどうかも心配です。

 ガスでもうひとつ不便な事は、日本のように「自動着火」ではないことです。

先にダイアルをまわしガスを出してからマッチで着火します。

 マッチを使うのは何十年ぶりでしょう、懐かしくもありますが〜。

「着火器」ももちろん売っています。

あの細長くて、手もとのボタンをカチッ押すやつですが、やっぱりいつ点かなくなるかわからないので、それよりも目に見えるマッチでと昔の暮らしをしています。

 電話は日本とほとんど同じです。

ただ料金水準は、こちらの他の物価と比べて相当割高です。

基本使用料約50ソーレス、日本への国際通話昼間約3.2、夜間約2.6ソーレスは日本の水準とかわらないのではないでしょうか。

それに18%の消費税も大きいです。

 日本では「五大公共料金」として NHKの受信料がありますが、こちらではテレビ・ラジオの受信料はありません。

 テレビ局が6〜7局あるかと思います。

そのうち1局が国営あるいは公共放送ということのようですが、その局もCMを流していて、そのせいもあって無料なのだろうと思います。

 水道料金は相当滞納しても止められることはないようですが、電気・電話は2ヶ月の滞納でストップされるそうです。

 日本でもそれに近いでしょうか。

ただ、日本では意識的に滞納する人は少ないと思いますが、ここではぎりぎりまで支払いを遅らせる人が結構いるとのことです。

 「どうせ払わなければならないのに〜。」と思うのですが。

そういえば先日、ウォンのレジで前の人が公共料金の請求書を何枚か手に持って支払いをしていました。

 レジのシニョリータが料金を計算して客に告げると客はしばらく考えてから、そのうちの1枚の請求書を返してくれといい、残りを支払っていました。

 その1枚は滞納にするのかどうか知りませんが、いずれにしても日本人ならあらかじめだいたい料金を計算してから支払いに行くところですが、これが「ペルー方式」なのでしょう。。

 よくあるケースなのでしょう、シニョリータもなんの反応も示すことなく、ごく自然に入力の取り消しを打っていました。

そして支払いを済ませた客にいつも通り無表情にひとこと“ Gracias ”と。

 なお、公共料金の支払いはもちろんそれぞれの会社の営業所でもいいですが、スーパーのサービスカウンターですべて取り扱っていて、買い物のついでに払う人が多いです。

 日本と違い、銀行は手数料を取られます(電話料金の場合)。

公共料金ではありませんが、郵便切手もスーパーで取り扱っていて、切手を買うとその場で貼って、一括して発送してくれます。

 正式のポストではないので、確実を期すときは自分で郵便局へ持って行きますが、簡単な郵便はスーパーが便利です。

 ペルーの「ライフライン」のあらましでした。


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