Chapter 2


きけんな国?
《Part.1》




「岡田さん、ペルーは危ないですから気をつけてください。」
こちらへ来るときいろいろな人から注意されました。
注意してくださった方は,南米の事情に詳しい方、仕事などでペルーに住んだことのある経験者、ペルー在住25年で日本語教育の研修のため来日していた日系1世の女性教師,はては日本に仕事で来ていたペルー人自身・・・などです。

「危ない」といわれても具体的にどんなキケンがあるのかちょっとわからなかったのですが、どうやら3種類ぐらいに分けられそうです。
(1) 政治的なもの
真っ先に頭に浮かぶのが5年前の「日本大使館人質事件」でテロリストによるものです。
ただ、当時数万人いたといわれるテロリストは現在は250人程度に減りそれも僻地に残るだけといわれます。
ですから現在都市部ではほとんどこの問題はないといってよさそうです。
テロに代わるキケンとなると大統領派と反大統領派に分かれる軍の動きということになるかもしれません.

今回のフジモリ辞任表明後の情勢でもいろいろとりざたされましたが、このへんのことになると私はもちろん、ペルー人にも予測は難しそうです。
 先日も夜Apartamento に帰ると日系人協会から電話があり、外出は控えるようにとの指示でした。
「軍の動きがあり、大統領はアメリカに出た。政変の可能性があり、日系人・在住日本人には危険が及ぶおそれがあるから〜」との情報です。
結果的には何事も起きませんでしたが、各国系人のなかで日系はいまの情勢の中で相対的に危険度の高い存在であるのはまちがいないようです。

(2) 集団的な暴動行為
 9月末から10月始めにかけてバス関係の交通ストライキがありました。
朝、郊外から市内に向けて通勤する小型のバス(こちらには4種類のバスがあり今回のストライキはそのうち大型バスのストです)や自家用車は途中でストの労働者に止められ強制的に車から降ろされます。
ストは会社や公共機関の機能をマヒさせることにあって、他の労働者を職場に向かわせないためにそういう形で出勤を阻止しようとするのです。
その際指示に従わなかったり抵抗したりした場合、集団で車に危害を加え、時には使用不能になるまでボコボコにされます。

 こちらは南米各国の例に漏れずサッカーが大変盛んです。
サッカーの試合で興奮した群集によって、競技場の周辺に置いてある車がやはりボロボロにされることがあります。

 最近、設備の整った競技場が新設されました。
観覧席の一部は分譲制になっていて金持ちはそれを買い取り優雅に試合を観戦します。
たまたま周辺は貧困な層の人たちの住む地域だったため、観戦に来る人たちの車がやはり燃やされたり壊されたりしました。

 学校の近くでこんなこともあったそうです。
子供たちがけんかを始めたのがエスカレートし集団同士の対決になった巻き添えをくらった車が、石を投げつけられボロボロにされた・・・。
 もちろん車だけでなく人にも危害がおよぶこともあります。
これを避けるのはただひとつ“君子危うきに近寄らず”です。

(3) 強盗・窃盗・スリ
フツーの生活の中で一番ポピュラーなもので、相当注意していても被害に遭うことが多いみたいです。
 先にお話したペルー在住25年のベテラン女性教師自身の体験談です。
車を運転していてネックレスを4回盗られたそうです。
ウィンドウは手がやっと入るくらいしか開けていなかったそうです。
普段は十分注意しているのですが、たまたま親しい友人が助手席にいて話しに気をとられていたときです。
“なにかヘンだな”と思ったときにはもう首にネックレスはなく、どろぼうの顔も見ることはできなかったそうです。
「それにしても痛くはなかったんですか?」と聞くと
「それがほとんど感じないんです。」とのこと。
「ペルーの泥棒は芸術的といっていいです。」

 彼女自身ではないですが他の例をいくつか挙げます。
ある家のご主人が庭に水を撒いていたそうです。柵の外側も撒こうと格子の門を少し開けホースで水を撒いていると、一人の男が道を尋ねてきたそうです。
それを説明しているうち、“ちょっとくどくきいてくるな“と不審に思い振り返ると、別の男が家からものを持ち出して車で逃げるところだったそうです。
それを追いかけきれず、家に帰ってみて驚いたことに冷蔵庫までなくなっていたそうです。
 ある一家が夜遅くレストランで食事をし、家の前まで来て車をしまおうとしていたとき、前後を3人組みにとりかこまれ、家族は家に帰され主人だけを車で連れ去り、持っていたキャッシュカードでCD機から一日の限度いっぱいまで出金させ取り上げたそうです。そのあとしばらくあたりをぐるぐる回って零時になり日付が変わったところで、ふたたび一日の限度いっぱいの出金をさせた上で解放したそうです。襲う時間を事前に計算しているのです。
 道で襲われた時、持っているものがなく、強盗に収穫がない場合も要注意です。
家まで連れてこられ、中からかぎを閉めてゆっくり家を物色されるとか〜。

 バスの中で被害に遭うことも多いということです。
近寄ってきて脅し取るのだそうです。
「でも、まわりに人もいるし、車掌だっているじゃないですか。」と私。
「だめですね。まわりも車掌も知らん顔です。そんなとき抵抗しないほうがいいです。抵抗するとお金だけではすまないですから。」とペルー通。
こちらのバスは料金を車掌が集めにきます。
どんなに込んでいても必ずもれなく集めにきます。
感心するくらいだそうですが、それなのに乗客の危機には無関心!
これがペルーなのです。

 その他、普通に道を歩くときも十分注意が必要です。
よくある手口は、何かを尋ねてきて答えているスキにかばんなどをひったくる。
人通りの少ない所では脅されてお金・貴重品を盗られる。

注意してくれた、日本に働きに来ていたペルー人自身
「もう長く日本に住んでしまったので、私もペルーに帰ると怖いです。」
と真剣に話していました。

こちらに来る前にペルー通の方に聞きました。
「『狙われる条件』はなんですか?」
Eメールで返事が返ってきました。
いわく
[1] 運
[2] 時間帯
[3] 服装
[4] 言葉〜スペイン語を駆使できるかどうか
[5] 態度〜たえず注意しスキをみせない
とのことでした。
いまこの5か条が実に当を得ていると実感する毎日です。
我ながら「幸運」を祈るるしかありません。   

いろいろな方のアドバイスを受け、一応次のような注意を実行しています。

不審な人間が近寄ってきたらできるだけ離れる。
一人で暗い場所は通らない。
貴金属などは身につけない。
お金も必要最小限しか持たない。
いい服装はしない。
バッグは必ず手にしっかり持ち、できれば肩掛けなどで隠す。
ウィンドウを閉めた車の中でも高級そうなバッグなどは外から見えないところに置く。(見えるとウィンドウを割ってひったくられる)

 よく車の助手席でついバッグをひざの上に載せている私は
「だめだめ、バッグは脇に抱えて見えないように手で隠す。」と何度も注意されるのですがいまだに身につきません。
それにだいいち
「『不審な人間』ってどうやって見分けるんですか?」
「それは、長年住んでいると自然にわかるようになりますよ。」
自然に分かるようになる前に狙われてしまったら・・・。
それこそ「運」です。


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