Chapter 8


知られざるリマのチェックポイント

 もうひとつの

「地球の歩き方〜リマ編」(1)



海外旅行のガイドブックでは、いまや“定番”となった感のある「地球の歩き方」。
私も大変お世話になりました。
 ナスカ、トルヒーヨ、アレキーパ…。
いつもバックパックの中には「地球の歩き方」が外側のポケットに収まっていました。
 そして、いまだ訪れることができないクスコ、マチュピチュ、プーノ(チチカカ湖)も、そのページを開いてはまだ見ぬ地への旅を、わくわくしながら計画したりして。
 そんな時、ガイドブックというものの効用は半分ぐらい、旅行前の計画の楽しみにあるのだなあ〜と思ったりします。
 その「地球の歩き方」も、ここリマに居ついて長く暮らしている日本人の人たちに言わせると「あれは『地球の迷い方』だ。」と実に手厳しいです。
 つまり、ほんのうわべだけの案内で、本当のチェックポイントを取り上げていない〜というわけです。
 それだからといって「地球の『迷い方』」とまで言わなくても〜と思いますが、なにせそう言っている人の中に小西紀郎さんもいるのですからどうしようもありません。
 小西紀郎さんといえば、その「地球の歩き方」に“ペルーの高級寿司屋〜紀ろう”としておすすめのレストランのひとつに写真入で挙げられている、まさにそのオーナー自身なのです。
 一流ホテルとしてはただひとつセントロに残った“ヒルトン”の地下1階に店を出していた“紀ろう”は(数ヶ月前、セントロからやはり繁華街の一つカミノ・レアールに移りましたが〜)「歩き方」の案内にもあるとおり、値段も高いですがたしかにおいしいです。
 私などの出入できるところではありませんが、例によってSra.坂口やSra.宮里といった方々の招待で幾度かご相伴にあずかっています。
 夜は大抵、日本からのツアー客を相手に紀郎さんが(ここの日系の人たちは“紀郎さん”と呼んでいます)寿司とアンデスの食材について熱弁を奮っています。
 はじめ私は、ツアー客の人たちがここを訪れるのがわかりませんでした。
ペルーまで来てなんでわざわざ日本食を食べに来るんだろう?〜と。
 しかし紀郎さんのべらんめえ調の、面白くて熱のこもった話を聴いていると、なるほどリマに来たら一度はここで寿司を食ながら、紀郎さんの話を聴かなければいけないな〜と思ってしまいます。
 実に多芸な人で、歌を歌わせればプロといってもいいほどだし、一方ペルー原産の食材についてよく調べていて、こちらの日系紙“ペルー新報”に「紀郎の“食材に国境はなし”」という連載を載せています。
 またその特異なキャラクターと大きな目にはちまき姿が受けて、日本食品のコマーシャルで、テレビや商品のラベルでも活躍し、いわばリマの名物男です。
 その紀郎さんが「あのガイドブックはとんでもない。地球の迷い方だ。」と一言のもとにはいて捨てます。
 紀郎さんだけではありません。
天野博物館の阪根さんもそう言いますし、他にも何人かからそう聞きました。
 発行元のダイヤモンド社のために言えば、もちろんそれはオーバーな表現で、そこを修正して「まあ、『地球の歩き方』は一応参考にはしてもいいじゃないですか。あとはじっくり自分で調べて、行き先や行き方を決めれば〜。」と冷静な言い方をする人もいます。
 2年半リマに住んでみて「せっかくリマの地を踏んだのなら、ぜひとも“ここを”」というポイントはたしかにあります。
 このシリーズは「もうひとつの地球の歩き方〜リマ編」として、そんなポイントをいくつかご紹介することにします。


 § 衛兵交代式を「中」から見る §
 「地球の歩き方」の“リマの歩き方”に“アルマス広場”の項があります。
リマ市の中心地でペルー政庁 Palacio de Gobierno のある広場です。
「ペルー政庁では、日曜、祝日を除く毎日12:00と17:00に衛兵の交代式が行われる。足をピッと伸ばした独特の歩き方で、厳粛に行われるセレモニーである。」
と書かれています。
 普通はその交替式は政庁を囲む鉄格子の外から見ます。
ところが、事前に政庁に申し込んでおくと、この交替式を政庁の内側から見ることができます。
 意外にも、このことは一般にあまり知られていないようです。
治安上の問題が多く、国政の中核施設である政庁に、そんなに簡単に入れてくれると予想する人が少ないせいでしょうか。
 幸いにして私は、そんな情報にも詳しいSra.坂口の助けを借りて申し込んでいただき、たまたまリマを訪れていた、大阪のボランテイア仲間だった女性2人と3人で「中」から見る衛兵交代式を体験してきました。
 パスポート又は Caret(外国人登録証)のNo.と名前を言って電話で申し込んでおき、当日朝9時に、政庁の通用門でチェックを受けて中に入ります。
 12時の衛兵交替式に先立って、政庁の内部の施設を、専任の職員が案内しながら説明してくれます。
 私たちには、日本語の話せる女性が応対してくれました。
パスポートの名前で日本人とわかり、事前に配慮してくれていたようで、ペルーの官庁の対応としては異例といってもいい、手際の良さです。
 しかも、30才台と思われる、ほりの深い顔立ちのペルー美人で、おまけにとても親切に案内してくれます。
 さらに驚いたことに、彼女はかつて「会館」の日本語クラスで勉強していて、私の懇意にしているグループの現役教師について勉強したのだそうです。
 そんなこともあって、いっそう親しく接してくれたのでしょうが、ときどき「私の日本語はまだまだだめで〜」と謙遜しますが、なかなかどうして立派なものでした。
 政庁はいわゆる“大統領官邸”でもあり、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのスペイン王朝の南米支配の拠点として設立されただけに、フランス王朝などヨーロッパ各国から贈られた家具、贅を凝らした調度、ペルー最大のシャンデリア、かなり最近まで儀式で使用していた装飾の馬車、といった逸物を次々に紹介してくれます。
 装飾馬車の前では、金ぴかの衣装の衛兵といっしょに写真におさまって満悦です。
前もってSra.から助言されていて、案内が終わったとき、封筒に納めた謝礼を渡そうとすると、彼女は固辞して、決して受け取りません。
 ペルーでは、それも異例ですが、本当に親しく親切にしてもらった立場としては、こんなとき受け取ってもらえないのは気持ちがおさまらず、どうしたらいいか逆に困惑してしまいます。
 あとで、彼女を教えた教師に相談したら、「ああ、彼女なら今も親しくしていますから、今度いっしょに食事にでも誘ってお礼したらどうですか?」とのこと。
日本贔屓らしい彼女に、何か日本のおみやげと食事で礼をしようと考えています。

 案内は1時間ほどで終わり、12時の衛兵交代まで時間があるので、いったん政庁を出て、アルマス広場を散策しながら、軽い食事をしてもいいし、同じ広場に面した南米最古のカテドラルを見学するのもいい。
 また、このあたりのいわゆるセントロ地区は、なんといってもリマの中心地で、コロニアルな建物群が認められ、歴史地区として世界文化遺産にも指定されています。
 したがってそれぞれいわれと歴史のある教会・修道院、宮殿、通りなどに事欠かず、時間を見ながら興味のある場所を訪れるのにとても好都合です。
ただし、この地区はスリ、ひったくり、強盗などに要注意のエリアですが。

 そうやって時間を過ごし、再び政庁内に戻っていよいよ12時からの Cambio de Guardia (衛兵交代式)を見ます。
 私たちは、式の行われる庭に面した出入口から式を見ます。
その日、私たちの他には20人ぐらいの小学生の小グループが一組、先生に引率されて来ていました。
 庭は広くて、式が行われる中央付近まではかなりの距離があるので、一般の人たちが見る「外」からとさして変わりません。
 ただ、見る角度がやや斜め後ろから見ることになり、少し感じが違います。
しかし、衛兵の出入口は建物の左右に分かれて2箇所から出入します。
その一方の出入口は、私たちの目の前にあるので、式に向かう行進を、はじめから真近に見ることができます。
 目の前を通る、まだ学校を出たばかりと思われる若い衛兵の、ややおぼつかない足の上げ下げがなんともほほえましく、思わず3人で顔を見合わせてしまいます。
 指揮者や音楽隊を含めて数十人をくだらない衛兵が隊列を整えて、一斉に足を上げ、下ろして靴をならし、表情ひとつ変えずに整斉と儀式を行っているのを見ると、一方で伝統儀式の重さを感じながらも、他方で政治の効率化の点からギモンもわいてきて不思議な気分になります。
 しかし、儀式が終わり、衛兵がいっしょに写真に入ってくれるとなると、そんなことはどこへやら、競って衛兵と一緒に写真におさまって満足しています。
こうしてふだんは見られない、「内側」から見るCambio de Guardia は終わります。

 日本からのツアーもセントロのこのあたりには必ず立ち寄ります。
ですが、大抵はバスの中から、広場や教会、コロニアル調の建物を見て通りすぎるのがほとんどのようです。
 本当に手間をかけてサービスするのであれば、事前に手配をして大統領官邸の「中」からの衛兵交代式を組み入れることもできるのでしょうが、そこまでのツアーはないようです。
 まず、時間のゆとりがない上、きちんと交代式の予定時間に訪れることができるかどうか、またこの地区でバスを降りる際の安全の問題、などを考えるとツアー主催者としても敬遠してしまうのでしょう。
もったいないなと思います。



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