Chapter 11

 もうひとつの

「地球の歩き方〜リマ編」(4)

知られざるリマのチェックポイント



§§ “ Rosa Nautica ” ( 海 の 薔 薇 )〜海上のレストラン〜
       
 リマは太平洋に面した海の街です。
同時に雨の降らない“砂漠の街”でもあります。
 市内を流れる唯一の川、リマック川添いなどにわずかに緑が見られる他は黒っぽい砂地がベースになっています。
 そのことが逆にこの街の人々の“緑”に対する希求を強めるのでしょうか、街の中は家々の庭、公園、大きな通りの真ん中に設けられた緑地帯、などなど人工の緑にあふれています。
 おそらく市街の“緑化率”は東京や大阪より高いと思われます。
自然の緑が例外的に見られるのはリマック川を除けば、アンデスからの地下水が涌き出るごくわずかの数地点だけです。
 そのひとつが“ Costa Verde ”(コスタ・ベルデ〜緑の海岸)です。
リマの海岸は、大半が海から急な崖になっていて高いところでは100メートルほどもあります。
 その崖の上のあたりから地下水が湧き出し、その水に恵まれて緑が一面に崖から海岸まで覆っているところからその地名が名付けられたのです。
 その緑も、おそらく地下水が工業用水として上流で利用されてしまうようになったのでしょう、いまは一部を除いて、崖が黒い砂肌を見せるようになってしまいました。
 しかし、かつての豊かな緑を“ブランドネーム”にした高級レストランがその海岸にあり、リマで一、二と言われています。
 その名も“Costa Verde”。
 海に面した大きなガラス窓に沿って席が設けられ、食事ができるようになっています。
食事をしていると、三人グループの“流し”がやってきて希望の曲をギターで演奏してくれます。
 もちろん Propina (チップ)ははずまなければなりません。
「〜海に突き出したテラス席もある。海に沈む夕陽を眺めながらピスコサワーを傾けることができるのは、この立地ならでは。」と「歩き方」に載っています。

 その“ Costa Verde ”と並んで、Limen~o (リメ−ニョ〜リマっ子)に人気の高いのが“ Rosa Nautica ”(ロサ・ナウテイカ〜海の薔薇)です。
 “ Costa Verde ”から海岸を1キロあまり北に行った所にそのレストランはあります。
海岸から70〜80メートルほど延びた桟橋の「海上」に建物があります。
 全体の形が八角形状のおしゃれな建てかたで、ややグレー系の落ちついた青いパステルカラーが特徴です。
 店内が全体に落ちついた雰囲気を漂わせているのは、明かりをおさえているせいなのかもしれません。
 そしてこのレストランの“売り物”はなんと言っても「海の上」にあることです。
「“ Costa Verde ”と同じく海に突き出した海上レストランだ。」と「歩き方」は書いています。
 〜が、これは決定的な表現ミスです。
“海に突き出して”いるのと“海の上”とは全く違います。
 その上“突き出している”といっても、海の間近という実感さえ“ Costa Verde ”にはあまりありません。
 「“ Costa Verde ”と同じく…」と書かれては“ Rosa Nautica ”はたいへん不本意です。

 “海の上”のレストランといえば、日本にもあったかと思います。
〜が“ Rosa Nautica ”がすごいのは、海面からの高さがわずか4メートルほどしかないことです。
 もし日本の、太平洋に面した海岸の70〜80メートル沖に、こんなレストランを建てたとしたら…。
 一面のガラス窓が波をかぶらない日が何日あるでしょうか。
リマ沖海流(フンボルト海流)の冷たい海面から発生する霧に覆われて、1年を通して穏 
やかな、決して荒れることのないリマの海岸でなければできない建築物です。
 冬の荒天や、まして台風などを想像すると、日本では考えられないことでしょう。
入り口を入ると、右側がカフェ・レストランになっています。
 同じ一面のガラス窓でも、こちらは“海の上”からのオーシャンビューです。
晴れた日には、北に遠くカヤオの岬と、その先に浮かぶサン・ロレンソ、フロントンの二つの島が望めます。
 レストランの左側に一段低い床のスペースが設けられ、そこはバーになっています。
低いテーブルにやわらかなソファのその一角は、夜一段と照明を落として、レストランとは別の世界になります。
 床が低い分、水面がいっそう近く感じられ、“海の上にいる”という実感が…。
穏やかな波が、遠くミラフローレスの街の灯を映して岸に寄せ、ピスコサワーを傾ける動作もおのずからゆったりと…。
 〜などという、古い映画のシーンのような情景が、ここには実際に存在します。
はるか南に続く海岸線が、チョリージョスの丘の家々のあかりで途切れ、その先は太平洋へと続くはてしない闇となり、手元のグラスと一皿のPiqueo(ピケオ〜つまみ)と、そしてCriolla(クリオージャ)の音楽と…。

 800人収容の広く、明るい店内の“ Costa Verde ”は、それはそれで華やいだ雰囲気を誇っていいでしょう。
 しかし、このふたつのレストランのどちらを勧めるかと問われれば、断然“ Rosa Nautica ”です。
 とりわけ、このバーです。
「歩き方」では“ Costa Verde ”に多くスペースを割いています。
 ふたつのレストランのどちらかを訪れようとした人が、もし「歩き方」を読んで、“ Costa Verde ”を選んでしまったとすると〜。
私は少し残念です。

                     <2003・4・11>



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